リモートワークで成果を出す:管理職のための時間とセルフマネジメント実践術
不確実な時代のリモートワーク、管理職自身の課題
VUCAと呼ばれる不確実性の高い現代において、リモートワークは多くの企業で働き方の選択肢の一つとなりました。長年対面でのマネジメントに慣れ親しんできた管理職の皆様にとって、リモート環境下での部下とのコミュニケーションや状況把握、成果管理といった課題に日々向き合っておられることと存じます。
しかし、部下やチームのマネジメントと同様に、管理職自身のリモート環境下での働き方もまた、アップデートが求められています。特に、時間の使い方や自身の心身の状態を管理する「セルフマネジメント」は、見落とされがちながら、リモートワークで安定的に成果を出し続ける上で極めて重要な要素となります。
対面勤務と比較して、リモートワークでは仕事とプライベートの境界線が曖昧になりやすく、意図的に管理しなければ長時間労働に陥ったり、逆に集中力が散漫になったりするリスクがあります。また、孤独感を感じやすくなることや、情報過多による疲弊なども、セルフマネジメントの課題として挙げられます。
管理職自身が効果的な時間管理とセルフマネジメントを実践することは、個人の生産性向上に繋がるだけでなく、部下への模範となり、チーム全体の働き方や文化にも良い影響を及ぼします。本稿では、リモートワーク環境で管理職が実践すべき、時間管理とセルフマネジメントの具体的な方法について解説します。
リモートワークにおける時間管理の実践術
リモートワーク環境での時間管理は、自身の業務効率だけでなく、部下からの相談対応や会議参加といったマネジメント業務にも直結します。意識的に時間を設計し、管理することが求められます。
1. 自身の時間の使い方を「見える化」する
まず、自分がどのような業務にどれくらいの時間を費やしているかを把握することから始めます。タスクごとに作業時間を記録したり、日々のスケジュールを詳細に書き出したりすることで、無駄な時間や想定以上に時間を取られている業務が見えてきます。カレンダーツールやシンプルな時間記録アプリなどが役立ちます。
2. 優先順位を明確にし、タスクを構造化する
日々発生する多岐にわたるタスクに対し、優先順位をつけます。「重要度」と「緊急度」のマトリクスなど、既存のフレームワークを活用するのも有効です。そして、それぞれのタスクを完了までの小さなステップに分解し、構造化します。これにより、漠然としたタスクに圧倒されることなく、着実に進めることができます。
3. 集中できる時間を確保する(ブロックタイム)
メールチェックや突発的な依頼、オンライン会議などに時間を奪われがちなリモートワークでは、集中して思考したり、重要な業務を進めたりするためのまとまった時間を意図的に確保することが重要です。「この時間は資料作成に集中する」「この時間は誰からの割り込みも受け付けない」といったブロックタイムを設定し、カレンダーに登録して関係者に共有することも検討します。
4. 会議の効率化を徹底する
オンライン会議は手軽に参加できる反面、目的意識が薄いと時間の浪費に繋がります。開催する会議については、必ず事前に「目的」「ゴール」「参加者の役割」「終了時刻」を明確にし、アジェンダを共有します。ファシリテーターとして時間を厳守し、無駄な延長を避ける努力が必要です。参加する会議についても、自身の参加意義を問い直し、必要であれば参加方法(一部参加、議事録共有のみなど)を調整する交渉を行います。
5. デジタルツールの賢い活用
カレンダー、タスク管理ツール、メモツールなど、基本的なデジタルツールを活用して、自身の時間管理をサポートします。複雑な機能のツールである必要はありません。使い慣れたツールで、日々のタスクやスケジュールを管理し、リマインダー機能を活用するなど、自身の時間管理のリズムを作る工夫を取り入れます。
リモートワークにおけるセルフマネジメントの実践術
リモートワークでは、オフィスという物理的な境界がないため、自身の心身の状態やモチベーションの維持も重要な管理対象となります。
1. オンオフの切り替えを意識的に行う
仕事の開始・終了時間を定めるだけでなく、仕事モードとプライベートモードを切り替えるためのルーティンを作ります。朝の軽い運動や、就業後の短時間の散歩、着替えるといった行動が有効です。また、物理的な作業スペースと休憩スペースを分けることも、精神的な切り替えに役立ちます。
2. 心身の健康維持に努める
適度な運動、バランスの取れた食事、十分な睡眠は、生産性の土台となります。リモートワークで運動不足になりがちな場合は、自宅でできるストレッチやオンラインフィットネスを取り入れる、意識的に休憩時間に短い散歩に出るなどを実践します。また、長時間のデスクワークによる体の負担を軽減するため、作業環境の見直しも重要です。
3. 情報過多や通知疲労への対処
メール、チャットツール、ニュースサイトなど、リモートワークでは常に大量の情報に晒される可能性があります。情報過多による疲弊を防ぐためには、通知設定を見直す(不要な通知はオフにする)、メールやチャットを確認する時間を決める、意識的にデジタルデバイスから離れる時間を作るなどの対策が有効です。
4. 孤独感・孤立感の軽減
リモートワークが続くと、偶発的な会話や雑談の機会が減り、孤独感や孤立感を感じやすくなることがあります。意識的に部下や同僚との非公式なコミュニケーションの機会を設けます。オンラインでの雑談タイムの設定や、業務外の話題でのチャットなどが考えられます。自身のメンタルヘルスに気を配り、必要であれば信頼できる相手に相談することも重要です。
5. 自身の目標設定と定期的な振り返り
管理職としての自身の目標(短期・長期)を明確に持ち、定期的に振り返る時間を作ります。これは、日々の業務に追われる中で、自身の成長やキャリアパスを見失わないために重要です。目標達成度を確認し、必要に応じて計画を修正することで、モチベーションを維持し、自身の働き方を継続的にアップデートしていくことができます。
管理職自身のセルフマネジメントがチームに与える影響
管理職が自身の時間管理やセルフマネジメントを効果的に行うことは、単に自身の生産性を高めるだけに留まりません。管理職の働く姿勢は、部下にとっての規範となります。
- 時間管理の徹底: 管理職が会議の時間を守り、レスポンスの目安を示すことで、部下も同様に時間管理を意識しやすくなります。
- 適切な休憩: 管理職が休憩を取る姿を見せることで、部下も遠慮なく休憩を取れるようになり、結果的に集中力維持に繋がります。
- オンオフの切り替え: 管理職が終業後の連絡を控えるなど、オンオフの切り替えを実践することで、部下も安心して業務時間外は休息できる環境が生まれます。
- 心身の健康への配慮: 管理職が自身の健康に配慮する姿勢を示すことで、部下も自身の健康管理の重要性を認識しやすくなります。
このように、管理職自身がセルフマネジメントを実践し、自身の働き方をコントロールできている姿を示すことは、チーム全体のエンゲージメント向上や、より健康的で生産性の高い働き方を推進することに貢献します。
まとめ:自身をマネジメントし、不確実な時代を乗り切る
不確実性の高いリモートワーク環境で成果を出し続けるためには、部下のマネジメントと同様に、管理職自身の時間管理とセルフマネジメントの継続的なアップデートが不可欠です。自身の時間の使い方を見える化し、優先順位を明確にする時間管理の実践術。そして、オンオフの切り替え、心身の健康維持、情報管理といったセルフマネジメントの実践術をご紹介しました。
これらの実践は、一朝一夕に完璧にできるものではありません。まずは一つか二つ、今日から試せる小さな工夫から取り入れてみてください。管理職自身が自身の働き方を最適化し、健康的に働く姿を示すことが、変化の時代におけるチームを力強く牽引していく礎となります。
VUCA時代の波を乗りこなし、リモートワークで最大限の成果を出すために、ぜひ本稿でご紹介した実践術を日々の業務に取り入れていただけますと幸いです。