リモートワークで「集中力」を維持・向上させる:情報整理と環境整備のマネジメント実践論
VUCA時代におけるリモートワーク環境では、対面環境とは異なる課題が顕在化しています。その一つが、個人およびチーム全体の「集中力」の維持・向上です。オフィスでの勤務に慣れていた方々にとって、自宅などリモート環境は誘惑が多く、情報過多になりがちであり、集中を妨げる要因が少なくありません。これにより、生産性の低下を招く可能性があります。
本稿では、リモートワーク環境下で成果を出すために不可欠な集中力について、その阻害要因を理解し、情報整理と環境整備の両面から、マネージャー自身が実践できること、そして部下の集中力を高めるためにマネジメントとして取り組むべき実践論を提示します。
リモートワークで集中力が課題となる背景
対面環境では、周囲の雰囲気や同僚の姿が無意識のうちに集中を促したり、情報の優先順位付けを助けたりすることがありました。しかし、リモートワークでは、そうした外部からの自然な働きかけが失われます。
- 情報過多と通知の氾濫: メール、チャット、ビジネスツールからの通知がひっきりなしに届き、思考が中断されやすくなります。必要な情報とそうでない情報の区別がつきにくく、常に「反応」を求められているような感覚に陥ることがあります。
- 環境要因: 自宅環境は仕事専用の設計になっていない場合が多く、家族の存在、家事、テレビなど、集中を妨げる個人的な要因が存在します。また、物理的な境界線がないため、オンオフの切り替えが難しく、長時間労働や疲労につながることもあります。
- 非言語情報の欠如: 部下の様子の把握が難しくなり、集中できているか、あるいは何かに困っているのかといった「サイン」を見逃しやすくなります。これにより、適切なタイミングでのサポートが難しくなる場合があります。
これらの要因が複合的に作用し、リモートワークにおける集中力の維持を困難にしているのです。
マネージャー自身が実践する集中力維持・向上策
まず、マネージャー自身が自身の集中力を管理し、模範を示すことが重要です。
- 「意図的な情報遮断」の習慣化:
- 通知の管理: スマートフォンやPCの通知を必要最低限に絞り込み、集中が必要な時間帯は完全にオフにします。
- メール・チャット確認時間の固定: 常に受信箱を気にせず、一日に数回、時間を決めてまとめて確認・返信する習慣をつけます。これにより、作業の中断を減らします。
- 集中時間の確保: 重要なタスクや思考を要する作業には、会議などの割り込みが入らない「ブロック時間」を設定します。この時間は他の業務を行わないと決めます。
- 物理的・デジタル環境の整備:
- 作業スペースの確保: 可能であれば、仕事専用のスペースを設け、仕事に関係ないものは置かないようにします。難しければ、一時的にでも集中できる場所を確保します。
- デジタル環境の整理: デスクトップを整理し、作業に必要なファイルやアプリケーションにすぐにアクセスできるようにします。不要なウィンドウは閉じ、マルチタスクを減らします。
- 時間管理の工夫:
- タスクの細分化: 大きなタスクを小さなタスクに分割し、それぞれの完了を目指すことで、達成感を得ながら集中を維持します。
- 休憩の計画: 短時間でも定期的な休憩を計画的に取ります。ストレッチや軽い運動は気分転換になり、その後の集中力回復につながります。オンオフの切り替えとして、終業時間を明確に設定し、それ以降は仕事から離れるように努めます。
部下の集中力を高めるためのマネジメント実践論
部下がリモート環境で集中し、最大のパフォーマンスを発揮できるよう、マネージャーは環境整備とコミュニケーションの両面から働きかける必要があります。
- 「情報過多」への配慮と情報共有の最適化:
- 情報の取捨選択: 部下に伝えるべき情報、共有方法、タイミングを吟味します。全ての情報をリアルタイムで共有する必要はありません。
- 連絡ツールの使い分けの推奨: 緊急度の高い連絡はチャット、記録が必要なやり取りはメール、議論が必要な場合はオンライン会議など、ツールの特性に応じた使い分けのガイドラインを示唆します。
- 情報の整理・集約: ナレッジ共有ツールなどを活用し、頻繁に参照される情報や定型的な情報は集約しておき、個別の問い合わせを減らす工夫をします。
- 「集中時間」を尊重する文化の醸成:
- 連絡ルールの設定: チーム内で、緊急時以外の連絡は返信を急がない、特定の時間帯は連絡を控えるなど、集中を妨げないためのルールを設定することを検討します。
- オンライン会議の効率化: 会議の目的とアジェンダを明確にし、事前に資料を共有するなど、会議時間を短縮する工夫をします。また、必ずしも全員参加である必要がない会議は参加者を限定することも考慮します。
- 部下の状況把握とサポート:
- 定期的な1on1: 部下一人ひとりと定期的に1on1を実施し、業務の進捗だけでなく、リモートワーク環境での困りごと、集中できているか、どのようなサポートが必要かなどを丁寧にヒアリングします。
- 環境整備へのアドバイス: 物理的な環境やデジタル環境で困っていることがあれば、解決に向けたアドバイスや必要なサポートを提供します。特定の高価なツールを推奨するのではなく、身近な工夫で改善できる点を共に考えます。
- 成果ベースでの評価: 勤務時間でなく、達成した成果に焦点を当てて評価する姿勢を示すことで、部下が自身の裁量で集中できる時間や方法を選択しやすくなります。
まとめ
リモートワークにおける集中力の維持・向上は、単なる個人の問題ではなく、マネジメントによる環境整備と意識付けが不可欠です。情報過多への対策、物理的・デジタル環境の整備、そして部下の状況に応じたきめ細やかなサポートを通じて、チーム全体の生産性を高めることが可能になります。
まずはマネージャー自身がこれらの実践論を取り入れ、その経験をチームに共有することから始めるのが良いでしょう。不確実な時代においてリモートワークで成果を出し続けるためには、こうした基本的な「働き方」そのものを常にアップデートしていく視点が求められます。