リモートで見えにくい部下の「不安や迷い」を解消する:営業部長のための寄り添いと実践マネジメント
リモートワークで見えにくくなる部下の「内なる声」
長年の対面マネジメントで培われた経験をお持ちの部長職の方々にとって、リモートワーク環境への移行は、部下の「見えない部分」への難しさを伴うものです。特に、部下が抱える小さな不安や業務上の迷いは、オフィスにいれば些細な表情の変化や、ちょっとした声かけで察知できたかもしれません。しかし、画面越しのコミュニケーションが中心になると、そうした「内なる声」が届きにくくなります。
部下の不安や迷いが放置されると、業務効率の低下、モチベーションの低下、最悪の場合は早期離職にも繋がりかねません。リモート環境下で成果を出し続けるためには、これまで以上に意識的に部下の内面に寄り添い、彼らが抱える「見えにくい不安や迷い」を解消していく実践的なマネジメントが求められます。
リモートで部下が不安や迷いを抱えやすい要因
リモートワーク固有の環境は、部下に様々な不安や迷いを抱かせやすい要因を含んでいます。
- 情報不足・情報格差: オフィスでのちょっとした立ち話や、周りの状況から自然と得られていた情報(例:他の人がどう進めているか、部門全体の雰囲気、会社の方針の背景など)が入ってきにくくなります。これにより、「これで合っているのか」「自分だけが取り残されているのではないか」といった不安が生じやすくなります。
- 孤立感: 同僚や上司との物理的な距離は、心理的な孤立感に繋がり得ます。すぐに相談できる人がいない、雑談が減る、といった状況は、「自分は一人で問題を抱え込んでいる」という感覚を強めます。
- 評価への懸念: 自分の働きが正当に評価されているか見えにくい、という不安です。オフィスであれば、頑張っている姿や成果が目につきやすかったかもしれませんが、リモートではそうはいきません。特にプロセスが見えにくい業務では、成果を出すことへのプレッシャーや、評価への懸念が増大します。
- 非言語情報の不足: 表情、声のトーン、姿勢といった非言語情報が伝わりにくいため、相手の意図を正確に理解しにくく、誤解が生じやすくなります。「これで大丈夫です」と言われても、対面なら感じ取れたであろう微細な不安や迷いに気づきにくくなります。
- 公私の区別の曖昧さ: 自宅での勤務は、仕事とプライベートの境界を曖昧にし、オンオフの切り替えの難しさや、家族への配慮といった新たなストレス要因を生むことがあります。
これらの要因が複合的に作用し、部下は多かれ少なかれリモート環境下で不安や迷いを抱える可能性があることを理解しておくことが重要です。
部下の「不安や迷い」を早期に察知するための実践アプローチ
リモート環境下でも部下の内面に寄り添い、不安や迷いを早期に察知するためには、意図的かつ計画的なコミュニケーションが不可欠です。
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「意図的なチェックイン」の習慣化: 形式的な報告だけでなく、短い時間で良いので「今日の調子はどう?」「何か困っていることはない?」といった、業務以外の側面も含めた声かけを習慣化します。朝の短いオンライン朝礼で一人ひとりに問いかけたり、業務開始・終了時にチャットで簡単な状況確認と合わせて体調や気分に触れたりすることも有効です。
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チャットツールの積極活用と「心理的ハードル」の低減: メールよりも迅速かつ非公式なコミュニケーションが可能なチャットツールを積極的に活用します。重要なのは、「どんな些細なことでもチャットで聞いて良い」という雰囲気をチーム内に醸成することです。マネージャー自身が気軽に質問に答えたり、絵文字なども活用して親しみやすい雰囲気を出すことで、部下は「こんなこと聞いて良いのかな」という迷いを減らすことができます。
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1on1ミーティングの質の向上: 定期的な1on1ミーティングは、部下が抱える深い不安や迷いを聞き出す絶好の機会です。単なる進捗確認の場ではなく、部下のキャリアやプライベートも含めた悩みや、仕事に対する本音を聞く時間として位置づけます。傾聴の姿勢を心がけ、部下が安心して話せるような信頼関係を構築することが重要です。
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共有ドキュメントや進捗管理ツールの活用: 部下が抱える業務上の迷いの多くは、情報不足や進捗への不安から生じます。共有ドキュメントで最新情報をいつでも参照できるようにしたり、タスク管理ツールでチーム全体の進捗を「見える化」したりすることで、部下自身が状況を確認でき、不要な不安を減らすことができます。これにより、マネージャーへの質問の負担も軽減されます。
察知した不安や迷いへの具体的な寄り添いと解消支援
部下の不安や迷いを察知したら、それを解消するために具体的な行動を取る必要があります。
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まずは丁寧に傾聴する: 部下が話している間は口を挟まず、最後までしっかりと聞きます。彼らが何に対して不安を感じているのか、具体的に何に迷っているのかを正確に理解することに努めます。相槌や頷き(オンラインの場合はカメラに向かって)で、聞いていることを伝えます。
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具体的な質問で状況を深掘りする: 「不安なんだね」「迷っているんだね」と受け止めた上で、「具体的に、何が一番気になっている?」「どの段階で立ち止まっている?」など、具体的な質問を投げかけます。抽象的な表現のままにせず、問題の核心に迫ることで、解決策が見えやすくなります。
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情報提供・明確化による迷いの解消: 部下の迷いが情報不足に起因する場合は、必要な情報を迅速に提供します。曖昧な指示だった場合は、意図や背景を丁寧に説明し、認識のずれを解消します。「これは〇〇さんに聞くと詳しいよ」「過去の事例で△△というケースがある」など、解決に繋がる糸口を示唆することも有効です。
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適切な権限移譲と伴走: 部下の「これで良いのかな」という迷いは、自信のなさや判断基準の不明確さから生じることがあります。明確な判断基準を示した上で、一定の範囲で意思決定を任せてみます。ただし、丸投げではなく、「困ったらすぐに相談して良いからね」「この段階で一度チェックする時間を設けよう」といった伴走の姿勢を見せることが重要です。成功体験を積ませることが、部下の自信と自律性を育みます。
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成功体験の共有と承認: 不安を乗り越えて成果を出したり、迷いながらも正しい判断ができた際には、すぐにそれを承認し、チーム全体にも共有します。成功体験は部下の自信に繋がり、次の挑戦への意欲を高めます。また、他の部下にとっても良い学びや刺激となります。
不安を抱えにくいチーム文化の醸成
個別の対応に加え、チーム全体で不安や迷いを抱えにくい文化を醸成することも、中長期的には非常に重要です。
- 心理的安全性の確保: 「何を言っても否定されない」「失敗しても責められない」という安心感があるチームは、部下が素直に不安や迷いを口にしやすい環境です。マネージャー自身が自分の失敗談を共有したり、部下の率直な意見を歓迎したりすることで、心理的安全性を高めます。
- 情報共有ルールの明確化: どのような情報を、いつ、誰に、どのように共有するか、といったルールを明確に定めます。これにより、情報格差による不安を減らし、必要な情報にアクセスしやすくします。
- 「困ったときの相談先マップ」の作成: この業務で困ったら誰に聞けば良いか、このツールについて知りたい場合は誰に聞けば良いかなど、相談先を明文化して共有します。これにより、部下は迷うことなく適切な人物に助けを求めることができます。
まとめ:リモート時代の「寄り添い」は成果のためのマネジメント
リモートワークにおける部下の「不安や迷い」への対応は、単に部下の機嫌を取るためのものではありません。それは、部下一人ひとりが最大限のパフォーマンスを発揮し、チーム全体の生産性を維持・向上させるための、極めて実践的なマネジメントスキルです。
対面時代のように自然に気づくことが難しくなったからこそ、意図的に部下の内面に目を向け、彼らが安心して働き、挑戦できる環境を意識的に作り上げていくことが、これからのリモートマネジメントにおいてますます重要になります。ご紹介した実践的なアプローチを参考に、ぜひ皆さんのチームでも「見えにくい不安や迷い」に寄り添うマネジメントを強化してみてください。