リモート環境で見過ごされている「非効率なプロセス」を特定し、営業生産性を劇的に向上させる改善アプローチ
リモートワークで見えにくくなった「非効率」の正体
リモートワークへの移行は、多くの組織で働き方を変革させました。特に長年対面での業務に慣れてきた製造業の営業部門では、これまで当たり前だった業務プロセスが、リモート環境ではスムーズに進まない、あるいは新たな非効率を生み出している可能性があります。対面であれば、ちょっとした声かけや雰囲気で気づけたボトルネックや無駄が、画面越しのコミュニケーションでは見えにくくなっているのです。
こうした「見過ごされている非効率なプロセス」は、営業部門全体の生産性を低下させるだけでなく、部下の隠れた負担増、情報伝達の遅延、そして最終的な顧客対応の質の低下にも繋がりかねません。VUCA時代において、環境変化に対応し成果を出し続けるためには、この見えにくい非効率を意図的に見つけ出し、改善していく取り組みが不可欠となります。
本記事では、リモート環境下で見過ごされがちな非効率なプロセスをどのように特定し、具体的な改善によって営業部門の生産性を向上させるかについて、実践的なアプローチを解説します。
リモート下の非効率プロセスが見えにくい理由
なぜリモートワークでは非効率なプロセスが見えにくくなるのでしょうか。その主な要因は以下の通りです。
- 非公式なコミュニケーションの減少: 対面時には喫煙所や休憩時間、部署内の気軽な会話から得られていた業務の進捗状況、困りごと、非効率な運用に関する情報が激減します。
- 業務プロセスのブラックボックス化: 各自が自宅などで業務を行うため、他のメンバーがどのような手順で仕事を進めているのか、何に時間がかかっているのかが以前より把握しづらくなります。
- 情報伝達の遅延・偏り: 必要な情報が適切なタイミングで共有されなかったり、特定のメンバー間でのみ情報が滞留したりすることで、後続のプロセスに遅延が生じます。
- 対面前提のルールの維持: リモートワークに適していない、対面での運用を前提とした承認フローや報告ルールがそのまま維持されている場合、それがボトルネックとなります。
- ツールの使い分けによる情報の分散: 複数のツール(メール、チャット、オンラインストレージ、SFA/CRMなど)を導入しているものの、情報共有のルールが不明確で、どこを見れば最新情報があるか分かりにくい状態。
これらの要因が複合的に作用し、部門全体の業務効率を低下させている可能性があります。
非効率なプロセスを特定する具体的な手法
見えにくい非効率を特定するためには、意図的かつ多角的なアプローチが必要です。
1. 業務フローの「見える化」を試みる
まずは、営業部門で頻繁に行われる主要な業務プロセス(例: 顧客からの引き合い対応、見積もり作成、受注処理、報告書作成など)を書き出してみましょう。
- 簡易的なフロー図作成: 関係者を集め、簡単な図や表を使って、誰がどのような手順で何を行っているのかを可視化します。専門的なツールは必須ではなく、ホワイトボードや共有可能なドキュメントツールでも十分です。
- 「手戻り」「待ち時間」「重複作業」に着目: 可視化したフローの中で、特に時間や労力がかかっている部分、頻繁に手戻りが発生する部分、誰かの承認や情報提供を待つ時間が長い部分、同じような作業を複数の人が行っている部分を特定します。
2. 部下からの率直なフィードバックを収集する
現場で実際に業務を行っている部下の声は、非効率プロセス特定のための最も重要な情報源です。
- 1on1での問いかけ: 定期的な1on1ミーティングの中で、「最近の業務で時間がかかっていることは?」「〇〇の作業はスムーズに進んでいますか?」「何か『これは無駄だな』と感じる作業はありますか?」など、具体的な質問を投げかけます。
- チーム会議での議題設定: 週次のチーム会議などで、「今週、非効率だと感じた業務やプロセスについて共有する時間」を設けるのも有効です。心理的安全性を確保し、率直な意見が出やすい雰囲気作りが重要です。
- 匿名アンケート: 状況によっては、匿名でのアンケートを実施することで、対面では言いにくい意見や具体的なボトルネックに関する情報を収集できる場合があります。
3. SFA/CRMデータや共有ツールのログを分析する
定量的なデータも、非効率を特定する上で役立ちます。
- 特定のタスクの完了にかかる時間の分析: SFA/CRMで管理されているタスク(例: 見積もり作成完了までの日数、報告書提出時間など)の平均所要時間やばらつきを確認します。特定のプロセスに異常に時間がかかっているケースがないかを探ります。
- 情報共有ツールの利用状況: 共有ドキュメントへのアクセス頻度や更新状況、チャットのやり取りなどを確認し、情報がスムーズに流れているか、あるいは特定の場所で情報が滞留していないかなどのヒントを得ます。
具体的な改善アプローチと実践策
非効率なプロセスが特定できたら、次は改善策を実行します。
1. 情報共有のルールと基盤を整備する
リモートワークでは、必要な情報が必要な人にタイムリーに届く仕組みが不可欠です。
- 情報の「置き場所」の明確化: 「この種類の情報はここに置く」というルールを明確にします(例: 顧客情報はSFA、プロジェクトの議事録は共有ドライブの特定のフォルダ、日報はチャットツールの専用チャンネルなど)。
- ツール活用の最適化: 導入しているツール(Slack, Teams, Google Workspace, Microsoft 365など)の各機能を、情報共有の目的に応じて最適に活用するルールを策定します。チャンネルの整理、ファイル名の統一ルールなども有効です。
- 非同期コミュニケーションの活用: すぐに返信が難しい状況を考慮し、非同期コミュニケーション(チャット、メール、掲示板など)で情報共有や確認を行う際の効果的な方法を部下と共有します。「〇〇までに確認してください」「返信は不要ですが、共有します」など、意図を明確に伝える練習を促します。
2. 承認プロセスをシンプルにする
対面での「ハンコ文化」や紙での回覧などが残っている場合、リモートワークにおいては大きなボトルネックとなります。
- オンライン承認システムの導入: 可能な範囲で電子契約システムやワークフローシステムを導入し、オンラインでの承認フローを確立します。
- 承認権限の見直し: 必ずしも部長承認が必要ではない事項について、チームリーダーや担当者レベルに承認権限を委譲することを検討します。信頼関係に基づいた適切な権限委譲は、プロセスの迅速化と部下の自律性向上に繋がります。
3. 会議の効率化を徹底する
リモート会議は移動時間が不要になった反面、目的意識が低いと無駄な時間になりがちです。
- 明確な目的とアジェンダ設定: 全ての会議に必ず目的と具体的なアジェンダを設定し、事前に共有します。
- 時間管理の徹底: 設定した時間を厳守し、延長は原則避けます。
- 決定事項・ネクストアクションの記録と共有: 会議中の決定事項や、誰がいつまでに何を行うかといったネクストアクションを明確に記録し、参加者全体にすぐに共有します。これにより、会議後の手戻りや確認作業を減らします。
4. 定型業務の効率化・自動化を検討する
頻繁に発生する定型的な業務には、効率化や自動化の余地があります。
- テンプレートの活用: よく使うメール文面、報告書、提案書などのテンプレートを作成・共有し、作成時間を短縮します。
- RPAやツールの連携: 可能であれば、RPA(Robotic Process Automation)の導入や、SFA/CRMと他のツールを連携させることで、手作業で行っていたデータ入力や情報転記などの時間を削減します。
改善の効果測定と継続的な取り組み
改善策を実行した後は、その効果を測定し、さらなる改善に繋げることが重要です。
- 改善前後の比較: 改善によって、特定の業務にかかる時間がどれだけ短縮されたか、エラー率が減少したかなどを定量的に測定します。
- 部下へのヒアリング: 改善策導入後、部下の業務負担がどう変わったか、スムーズに進むようになったかなどを改めてヒアリングします。
- 成功事例の共有: 改善によって効果が出た事例は、チーム全体に共有し、他の業務プロセス改善の参考にしたり、部下の改善意欲を高めたりします。
プロセス改善は一度行えば終わりではありません。VUCA時代においては、環境変化に合わせて常に最適なプロセスを模索し、継続的に改善していく姿勢が求められます。定期的にチームで集まり(オンラインでも)、現在の業務プロセスに潜む非効率について話し合う機会を持つことが、部門全体の生産性向上に繋がるでしょう。
まとめ
リモートワーク下で見えにくくなった非効率なプロセスを放置することは、営業部門の潜在能力を大きく損なう可能性があります。今回ご紹介したように、業務フローの可視化、部下からのフィードバック収集、データ分析といった手法を用いて非効率を特定し、情報共有の整備、承認プロセスのシンプル化、会議効率化、定型業務の効率化といった具体的な改善策を実行することが重要です。
これらの取り組みは、単に時間を削減するだけでなく、部下の自律性を高め、情報伝達をスムーズにし、変化に強い組織文化を醸成することにも繋がります。製造業営業部長として、リモート環境における「見えない非効率」に意識的に目を向け、チームと共に継続的な改善を進めていくことが、不確実な時代に成果を出し続けるための鍵となります。