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対面常識からアップデート:リモートで通用する製造業営業の「勝ち筋」を見つけ、部門力を高める方法

Tags: リモートワーク, 製造業営業, マネジメント, 成功パターン, ナレッジ共有

不確実性の高い現代において、リモートワークは多くの企業で標準的な働き方となりつつあります。特に製造業の営業部門においては、対面での関係構築や現場での情報収集に慣れてきた中で、リモート環境への適応に難しさを感じている方も少なくないでしょう。

リモートワーク下では、部下一人ひとりの活動や顧客とのやり取りが以前ほど見えにくくなります。この状況下で、部門全体の営業力を維持・向上させるためには、個々の「勘」や「経験」に頼るのではなく、組織として「何が成功に繋がっているのか(勝ち筋)」を見つけ出し、それを共有し、再現性を高めていく仕組みが必要です。

対面主体のマネジメントに慣れた立場からすると、この「勝ち筋」を見つけ出すプロセス自体が、対面時とは大きく異なります。本記事では、リモート環境下で製造業営業部門の「勝ち筋」を見つけ、部門全体の力として高めていくための具体的なアプローチについて解説します。

リモート環境で「勝ち筋」が見えにくくなる要因

まず、なぜリモート環境で「勝ち筋」が見えにくくなるのか、その主な要因を整理します。

  1. 活動の可視性の低下: 移動時間やオフィスでの偶発的な会話が減り、個々の部下が「いつ、どこで、誰と、どのような活動をしているか」が見えにくくなります。活動報告が形式的になりがちで、活動の「質」や背景にある思考が把握しづらくなります。
  2. 非公式な情報交換の減少: オフィスでの休憩時間や移動中の会話といった非公式な情報交換の機会が失われます。これにより、成功事例の裏話や、「あの顧客にはこういうアプローチが効いた」といった生きた情報が、特定の個人やチーム内で留まりやすくなります。
  3. 状況判断の難しさ: リモートでは、部下の表情や声のトーン、顧客からの反応などを直接的に感じ取る機会が減ります。これにより、「これは成功しそうだ」「あの商談は少し怪しい」といった対面時のような直感的な状況判断が難しくなります。
  4. 部門間連携の情報伝達ロス: 製造や開発部門との連携において、必要な情報がタイムリーに、かつ正確に営業部門に伝わりにくくなることがあります。これは、特定の製品や技術に関する「勝ち筋」を見出す上で大きな障壁となります。

これらの要因により、対面時には肌感覚で分かっていた「成功のパターン」や「うまくいく方法」が、リモートでは捉えづらくなってしまうのです。

製造業営業における「勝ち筋」とは何か

製造業営業における「勝ち筋」とは、単に「契約を取れた」という結果だけでなく、そこに繋がった再現性のある成功要因を指します。具体的には、以下のようなものが考えられます。

これらは、特定の部下だけが持っている「コツ」ではなく、分析し、形式知化し、他の部下も実践できるようにすることで、部門全体の営業力となるものです。

リモートで「勝ち筋」を見つけるための分析手法

リモート環境下でも「勝ち筋」を見つけるためには、対面時とは異なる意識と手法が必要です。

  1. データに基づいた分析:

    • CRM/SFAの活用: 商談履歴、顧客情報、製品情報、失注理由、そして受注に至ったプロセスを詳細に入力・蓄積させることが基本です。単なる活動報告としてではなく、「なぜ成功したのか」「どのステップが効果的だったのか」といった視点での入力ルールを設けることが重要です。蓄積されたデータを基に、特定の製品の成功率が高い顧客層、特定の提案手法を用いた案件の勝率などを分析します。
    • 成功事例の深掘り: 失注分析と同様に、あるいはそれ以上に、成功事例を深く分析します。どのような経緯で案件が発生し、最初のコンタクトから受注までどのようなステップを踏み、どの情報提供や提案が決定打となったのか。関わった部下だけでなく、技術部門や製造部門との連携がどう影響したのか、データと関係者へのヒアリングを組み合わせて掘り下げます。
    • 市場・競合情報の収集: 顧客からの情報だけでなく、業界レポート、競合のプレスリリース、オンラインセミナーの内容なども収集し、自社の「勝ち筋」が市場の変化や競合に対し、今後も有効であるか、あるいは新たな「勝ち筋」が見出せないかを分析します。
  2. 部下からの情報収集とヒアリング:

    • 1on1の活用: 定期的な1on1ミーティングの中で、単なる進捗確認に留まらず、「最近うまくいったこと」や「特に手応えを感じたアプローチ」について具体的に話を聞き出す時間を設けます。「なぜうまくいったと思うか?」「その時、顧客はどんな反応だったか?」と深掘りすることで、部下自身も気づいていない「勝ち筋」の要素が見えてくることがあります。
    • チーム会議での共有: チーム全体での会議において、成功事例の共有時間を設けます。その際、単なる結果報告ではなく、「なぜ成功したのか」のプロセスや工夫した点を具体的に発表させます。他のメンバーからの質疑応答を通じて、成功要因を多角的に分析します。
    • 報告書のアップデート: 日報や週報のフォーマットを、「活動内容」だけでなく、「特筆すべき顧客反応」「うまくいった点/改善点」といった項目を設ける形にアップデートすることも有効です。
  3. 部門間連携からのヒント:

    • 製造や開発部門との連携会議において、顧客からの技術的な質問や要望、製品に対するポジティブなフィードバックなどを共有してもらいます。顧客がどの点に価値を感じているのか、製品のどの特徴が引き合いに出やすいのかを知ることで、営業現場での「刺さる」提案ポイントが見えてきます。

これらの分析は、特定のツールに詳しい必要はありません。CRM/SFAの基本機能を使ったり、オンライン会議ツールでの情報共有会を開いたり、共有ドキュメントに情報を集約したりと、既存のリモートツールを工夫して活用することから始められます。重要なのは、「成功要因を意図的に探しに行く」という意識を持つことです。

見つけた「勝ち筋」を部門全体で共有・標準化する方法

見つけ出した「勝ち筋」を一部の部下だけのものではなく、部門全体の力とするためには、共有と標準化のプロセスが不可欠です。

  1. 形式知化とドキュメント化:

    • 分析で明らかになった「勝ち筋」を、誰にでも理解できる形(形式知)に落とし込みます。成功した提案書のテンプレート、顧客への説明で効果的だったトークスクリプト、特定の製品に関するFAQと回答例、部門間連携時の連絡フローなどをドキュメントや動画、音声などでまとめます。
    • これらの情報は、部門内で共通のアクセス可能な場所に保管します。情報共有ツール(SharePoint, Google Drive, Dropbox Businessなど)を活用し、必要な情報に誰もが簡単にアクセスできる状態を作ります。
  2. 共有会・勉強会の実施:

    • 定期的に、見つけ出した「勝ち筋」をテーマにしたオンライン共有会や勉強会を実施します。成功事例を発表した部下本人に解説してもらうのが最も効果的です。単なる一方的な説明ではなく、参加者からの質問を受け付け、具体的な疑問点を解消できるようにします。
    • 特に新人や経験の浅い部下向けには、基本的な「勝ち筋」を習得するためのオンライントレーニングプログラムを設けることも検討できます。
  3. 実践への落とし込みとフィードバック:

    • 共有された「勝ち筋」を、部下が実際の営業活動で実践できるように促します。例えば、オンラインでのロールプレイングを通じて、学んだトークスクリプトを使ってみる練習を行います。
    • 実践した結果についても、1on1やチーム会議でフィードバックを行います。「あの時の『勝ち筋』アプローチはどうだったか?」と具体的に問いかけ、うまくいった点、難しかった点を共有してもらい、改善に繋げます。
    • 場合によっては、オンラインでの顧客とのやり取り(ビデオ会議など)に同席し、アドバイスを送るといったリモートならではの同行支援も有効です。
  4. 「勝ち筋」の実践を評価に組み込む:

    • 目標設定や評価において、「〇〇(特定の『勝ち筋』)を実践し、その結果を報告する」といった行動目標を組み込むことも検討できます。これにより、単に結果だけでなく、結果に至るまでのプロセス、特に「勝ち筋」の実践を評価する姿勢を示すことができます。これは、リモートで見えにくい「活動」を適切に評価するための一助にもなります。

「勝ち筋」は常にアップデートが必要

ビジネス環境は常に変化します。「勝ち筋」も一度見つけたら終わりではありません。市場の変化、競合の動向、自社製品のアップデートなどにより、過去の成功パターンが通用しなくなることもあります。

そのため、「勝ち筋」の分析・共有・標準化のプロセスは、一度きりではなく、継続的に行う必要があります。定期的な成功事例分析会、市場情報の共有、そして常に新しいアプローチを試みる部下の挑戦を奨励し、そこから新たな「勝ち筋」の芽を見つけ出すサイクルを回していくことが重要です。

まとめ:リモートでの「勝ち筋」発見が部門力強化の鍵

リモートワークは、これまでの対面での「肌感覚」に頼ったマネジメントからの脱却を迫ります。特に製造業営業においては、製品知識、技術理解、部門間連携など、多くの要素が絡み合う中で「勝ち筋」を見つけることは容易ではありません。

しかし、データに基づいた分析、部下との丁寧なコミュニケーション、そして部門間連携の工夫を通じて、リモート環境下でも十分に「勝ち筋」を見つけ出すことは可能です。そして、それらを組織全体で共有し、誰もが実践できるように標準化していくプロセスこそが、リモート環境下で部門全体の営業力を高め、不確実な時代に成果を出し続けるための鍵となります。

リモートでのマネジメントに課題を感じている営業部長の皆様にとって、この「勝ち筋」の分析と共有は、部門の生産性向上だけでなく、部下の育成やエンゲージメント向上にも繋がる重要な取り組みとなるはずです。ぜひ、一歩ずつ実践してみてください。